一途な彼は俺様モンスター

最後の戦い

覚悟を決めて目を思いっきりつぶった瞬間、突然紙神が誰かに殴られて、少し離れた所まで飛んでいった。

紙神から解放された私は、起き上がって周りをキョロキョロする…




「…ヴァンパイアに喧嘩売るなんて…いい根性してるよな」


低くて男っぽい声が後ろから聞こえてきて、私はゆっくり振り返ると…

そこには、大量の汗をかいて息を切らした空翔がいた。その後ろには、翼を広げて宙に浮かぶバネちゃんもいる。




「浅海…ごめんな、遅くなって…」

「つ…ばさ…」


空翔を見た途端涙があふれ出し…気がつくと私は空翔に抱きついていた。




「浅海…もう大丈夫だから…」


私の頭を撫でる空翔の口調は、記憶を無くした浅海に話しかける時のもの…それは今の私からすれば、明らかにわかった。




「空翔…私ね…記憶が戻ったの……」

「え…」


空翔の胸に顔をうずめて言った私の言葉を聞いて、私を撫でる手が止まった…

私は肩を震わせて次から出てくる涙を拭いながら、そっと空翔から離れた…そして…





「つーちゃん…」


顔を上げ、空翔を見つめてそう一言口にした。


幼い頃…空翔のことを『つーちゃん』と呼んでいたから…これを言えば、私の記憶が戻ったことがわかってもらえるはず…

空翔は驚いている表情を見せたが、しばらくして力が緩んだように笑った。




「つーちゃんて呼ぶなって…ガキの時から言ってんだろ…」

「フフ…」


そう言うと、空翔は私を力いっぱい抱きしめる…

やっと…元の私たちに戻れた………そう思うと、また涙が出た。






「う……うぅ」


その時、近くで紙神の唸り声が聞こえる。空翔の攻撃が効いたのか、私たちから少し離れたところでわき腹を押さえながらやっと立ち上がる紙神。




「空翔、気をつけて…あいつ……私の血をずっと飲み続けてて、前よりも遥かにパワーアップしてるみたい」

「…ったく。こんなことなら、あの時逃がすんじゃなかったぜ…」


空翔の今の発言に、私は顔をしかめた。




「逃がしたって…私を助けに来てくれた時、紙神を『取り逃がした』って言ってなかった?」

「いや…本当は逃がしたんだよ。いい奴じゃないのはわかってたけど、お前が記憶を無くしてる間は、あいつのこと兄貴だと思ってたから…さすがに殺すのは、お前がかわいそうだと思って…」

「空翔…」


私のことを考えて逃がしてくれたのに、それが裏目に出るなんて…本当タチ悪い…





「お前はバネと安全なところにいろ」

「う、うん…わかった」


私がそっと離れると、空翔は優しく微笑んだ。こっちに近づこうとする紙神の方へ行こうとする空翔を、私は一瞬引き止めた。




「空翔!」

「…ん?」


空翔は振り返り、私を見つめる。




「これが終わったら…言いたいことがあるの…だから…」


言いたいことは1つだけ…空翔のことが好きってこと…
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