愛しい君~イジワル御曹司は派遣秘書を貪りたい~
「あれ、颯は帰ったの?」

 室長代理室から誉が顔を出すと、ニコッと笑顔で伝えた。

「はい。用事があるようで先程帰りました」

「参ったな。明日の打ち合わせ資料の訂正が入ったんだけど」

 誉はスマートフォンを無造作に取り出すと、手で何か操作して耳に当てた。

 私は慌てて彼の腕に触れる。

「待って下さい。一ノ瀬さんから資料のファイル預かってます」

「じゃあ、今すぐ見せて」

 誉に促されるまま自席のPCを立ち上げ、ファイルを開く。

 すると、彼はメガネを外して私の背後に立った。

「ここの数値変更して」

 屈んで画面を指差しながら、誉は私の耳元で囁く。

 彼の甘い香りと、甘く低い声に自分の身体が固まるのがわかる。

 心臓に悪すぎる。
< 10 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop