大っ嫌いなアイツに恋をした。
「あ、…ごめん、お邪魔だった…?」
永見先輩の遠慮気味な声にハッとする。
橘を押し倒した形のままだ…っ!
「い、いえ!全く…」
あたしは慌てて橘の上から退き、制服を整えた。
「また悠月が他の女の子たぶらかしてるんだと思ったよ。本当に二人付き合ってたんだね」
そんな永見先輩の言葉に橘は威嚇するように睨んだ。
「だったら何だよ。つーか、そっちこそこんな所に何の用だ」
橘は永見先輩から見えない位置であたしの手をギュッと握った。
「……いや、サボる場所を探してたんだよ。でも、先約がいたらしょうがないね」
永見先輩の少し後ろに躊躇った様子の女子を見つけた。
上靴の色で学年がわかる。
あたしたちは青。先輩は緑。
その女子の上靴の色は赤。
一年生、後輩だ。
あたしを一瞥した永見先輩は、その女子の肩を抱いて音楽室から出て行った。
「……たぶらかしてんのはどっちだっつーの」
そんな橘の小さな声はあたしの耳に残った。