大っ嫌いなアイツに恋をした。
お父さんとあたし、二人してポカーンとしていると
お父さんはハッとして声を出した。
「な、何だ…いい子じゃないか。最近の子にしては礼儀が良いな…」
何が礼儀が良いよ。
あんなの繕ってるだけでしょ。
アイツは最低なヤツで……
でも……お父さんの前だとあんな風にちゃんとするんだ。
何か、ちょっとだけ見直した……ような
気づけばあたしは見えなくなった橘を追いかけ走った。
住宅街を走って抜けると歩道で橘の後ろ姿を見つけた。
「……橘っ!」
大声を出して叫ぶと、その背中はこちらを振り返った。
「……何だよ、早く帰りてぇんだけど」
その表情に、さっき橘が言った言葉を思い出した。
“ただのクラスメイトです。”
そうだ。
あたしちは友達でもなく
ただのクラスメイト。
それなのに、走ってコイツを引き止めて何がしたいんだあたしは。