お試しカノジョ


「夏子ちゃん」

「…ん?」




あ、バス停が少し見えてきた。


もうそろそろ繋がれた手も離れちゃう。




「俺、本気で好きになった女の子は夏子ちゃんだけだから」

「…ふうん」




ドキドキしているのは、冬樹に聞こえてないといいな。




「今までタイプとかよく分からなかったけど」

「美人で巨乳が好きなんじゃないの?」

「……どこで聞いたの。まあ、典型的な男でしょ」

「そうだね」

「取り敢えずそう言ってたんだけど」




いつしかトイレで女子に冬樹と付き合ってるのか、と聞かれたとき。


ついでに冬樹の好みも言ってたから。




「けど、今の俺のタイプは夏子ちゃんだから」

「……ん」

「夏子ちゃん」

「なに?」

「夏子ちゃん」

「だからなに?」



冬樹が立ち止まったので疑問に思い

前に向いていた視線を、冬樹にやる。


すると、視界は冬樹でいっぱいになった。


3度目のキス。



今回は、抵抗しなかった。



離れる唇が名残惜しい。




「好きだよ夏子ちゃん、大好き」

「……どうも」

「夏子ちゃんは?」




冬樹はほんのりと頬を染めながら、私の顔を覗き込む。




「俺のこと、好き?」




あ、バスが…。


私たちが乗る予定だったバスは通り過ぎ、バス停に向かっていた。


今から走っても間に合わないだろう。
< 129 / 132 >

この作品をシェア

pagetop