お試しカノジョ
「ヘラ男…じゃなくて伊藤!」
「あれ?西本さん」
放課後、バスの時間に遅れるからと先に歩美を帰らせた。
しかし私はどうしてもこの男に用があるので教室に残っていた。
ヘラ男の周りには10人未満の女子が。
「冬樹ー、帰ろ」
「マックでも寄っていかない?」
「えー、スタバでしょ」
「ごめんね、今日は先に帰ってくれるかな」
私を放置しようと女子がヘラ男に群がるが、ヘラ男はそれを切った。
途端に不満を言う女子たちだが、優しくやんわりと断りを入れたヘラ男がムカつく。
「で、どうしたの?君から話しかけてくれるなんて嬉しいことこの上ないけど」
教室から出ていった女子。
室内は私とヘラ男の2人だけ。
2人っきりというワードに吐き気がしたが、こらえる。
「私と付き合うって、あれ嘘?」
「嘘であんなこと言わないよ。本気本気。なってくれるなら、繋がりのある女の子たちとは全員切るよ」
繋がりのある女の子たちが意味深に聞こえたが、まあそこはつっこまない。
「ふうん、友達にならなってあげてもいいよ?」
「…え?」
そして折原の情報ゲット。
私が直接折原と絡んだりなんかしたら、歩美から嫌われるかもしれないし。
いや、あの歩美がそんなことで嫌うなんてありえないけど。可能性の話。
この男と友達になるなんて海に身を投げるくらい嫌だが、仕方ない。
歩美のためなら、大嫌いな男と友達になるくらい…。