お試しカノジョ
「も、もしかして伊藤くんと西本さん付き合ってんの!?」
遠くで私たちのやり取りを見ていたのか、そんなことを言い出したクラスメート。
名前はまだ覚えてない。
しかし、あの人たちはいつも教室でヘラ男に群がっている子たちだ。
「うん、そうだよ」
あっさりと認めたヘラ男。
私はバッとヘラ男のほうに向き直って、低い声で話しかける。
「言わないでよ」
「なんで?」
「女子からの視線とか、痛いのよ!」
「あー、俺かっこいいからね。そこは我慢してね」
あははー、と笑うヘラ男に頬を膨らませて耐える。
なんで私、カノジョになるなんて言ったんだろう本当に。
勢いとはいえ、やらかした。
「お昼も一緒に食べようか」
「は?あんたと2人?冗談じゃないわ。私とお昼を食べたいなら諭吉を3人ほど連れてくるんだね」
そうしたら一緒に食べてあげないこともない。考えてやる。
あっかんべー、をしてそう言った。
私の貴重な高校生活の一部を、ヘラ男なんかにタダで捧げるわけにはいかないからね。
それなりの見返りはもらいたい。
「2人じゃないよー。楓もいるから…あっ、藤森さんも来る?」
「ちょっと!気安く歩美に話しかけるな名前を呼ぶな!」
「…行く」
「歩美っ!」
楓もいる、という言葉を聞いて瞳を輝かせ始めた歩美。
表情はさほど変わってないが、長年の付き合いである私には分かる。
すごく嬉しそう。
「じゃ、お昼は校舎裏で待っててね」
「一緒に行かないの…?」
あああ歩美!
そんな奴と口聞かないで。
ヘラ菌に感染してしまう。
私の歩美がっ、私の歩美がっ!
「他の子たちから足止めされそうだし、バレないように抜け出すからさ」
「けっ。人気者は大変デスネー」
「西本さんそれ嫉妬?」
「どんだけポジティブなの!?そんなわけないでしょ!」
お昼はヘラ男たちと…?
憂鬱だ。