お試しカノジョ
「西本さん、家どこら辺?」

「……」

「俺の家は八木区なんだ」

「……」

「ここからちょっと遠いんだよね」

「……」

「ねえ、聞いてる?」




無視。


なぜ私がこんなやつと一緒に帰らなければならないのか。


しかも横に並んで…。


いつもより早足なのに、こいつは楽々とついてくるし。


これが足の長さの差?




「………夏子ちゃんはバス通?」

「はあっ!?」

「歩きなの?」

「な、ん、このっ!」




い、今なんて言った?


鳥肌レベルじゃなかった。


オエゲロしそうだった。




「夏子ちゃん?」

「名前で呼ぶな、キモい!」

「いいじゃないか。恋人だろう?」

「違うっ」

「でもそっちは承諾したから。女に二言はないよね」

「…ある!」

「へえ、じゃあやめるの?」




なんでこいつは、こうもイラつかせるのが天才的なんだろう。


私だってパスしたい。


歩美は……あれだ。


他に良い男を紹介…はだめか。




「まっ、夏子ちゃんはゴキブリ以下のモノですら付き合えなかったということで…」

「もうっ!ウザい!!てかそれって、自分で僕はゴキブリ以下ですぅ、って言ってるもんじゃん!わかってんの?」

「ゴキブリ論は夏子ちゃんが勝手に言っただけで、俺は肯定してないよ」




は、ら、た、つ。


ムッカー、とする私に冷静になれというかのように、丁度バス停にバスが止まっていた。


走れば間に合う。




「あんた、いっぺん死んでみろ!」

「え…?あ、ちょっと!」




その台詞を吐き捨てて猛ダッシュでバスに乗り込んだ。

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