お試しカノジョ


「へえ、夏子も大変だね」

「本当よ」





体育館で、バレーをする女子たちとそれを観戦する女子。


隣では男子がバスケをしている。


チッ。


男子がバスケなんて定番すぎるのよね。


体操とかでもしてればいいのに。





「夏子は伊藤くんのこと好きじゃないの?」

「当たり前でしょ。まず性別から受け入れられない」

「…そっか。じゃあ人としては?」

「人としても無理」





軽くてヘラヘラしててウザいもん。


あんなのが仮でも彼氏だなんて人生の汚点なのに。




「……ふうん」

「どうかしたの?」

「別に」




ふいっと顔を逸らされて、クイッと体操服を掴まれた。




「あれ、伊藤くん」

「え?」




歩美が指したのはディフェンスを頑張っているヘラ男の姿。


はっ、こういうとき漫画だったらダンク決めてる最中だろうよ。




「かっこいいね」

「どこが?」

「爽やかだし、女子はみんなキャーキャー言ってるし」




確かに。


バレーをしている女子までもが、ヘラ男のほうに熱い視線を送っている。


くそ、これだから顔だけのやつは。




「なによりさ」

「うん?」




内心舌打ちしながらもヘラ男の姿を目で追う。




「楽しそうで、いいよね」

「………」




体育のヘラ男は、いつもと違って無邪気に笑っていたのでした。

< 47 / 132 >

この作品をシェア

pagetop