お試しカノジョ

楓くんに、話があると言われた後の、午後の授業は全く耳に入らなかった。


今まで接点もなく、話したこともなく、遠目で見るだけだった楓くん。


その楓くんから話しかけてくれるどころか呼び出されるなんて…。


これが天にも昇る心地というものか。




「歩美、帰ろー」




放課後になるとカバンを持って夏子が寄ってきた。




「え…」




どうしよう。


楓くんとの約束があるのだけど、これを夏子に言うとまた怒り出しそう。


だからわたしは咄嗟に嘘を吐いた。




「わたし今日委員会があるの」

「あっ、そうか」

「ごめんね」




嘘を吐いてごめん、と言う意味を込めて。


夏子はわたしの返答を聞くと、しょんぼりした。


…。


罪悪感で胸が痛い。




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