ブンベツ【完】
一瞬違う誰かの声だと思ったけどカイさんの声を間違えることなんてなくて、それは誰かに対しての凄い怒りの表れだった。
その相手は、
「何言われてももう決まったことだ」
ヨシノさんだ。
恐る恐る声が聞こえる居間に近づく。
冷えた空気が緊張に拍車をかけて、思わず肩に下げる鞄をぎゅっと握る。
ゆっくり一歩一歩とすり足で近づいて覗けば、
「じゃあアイツはどうなるんだよ?!?!」
ーーーーヨシノさんの上に馬乗りになって襟を引っ張るカイさんの姿。
卓袱台は引っくり返り恐らくその上に乗っていたであろう灰皿やコップの破片が散乱して、状況を物語っていた。
「…ッハナ、ちゃん….」
「ッあ、ご、ごめんなさいッ私ーーー」
私の存在に気づいたヨシノさんの言葉に、馬乗りになるカイさんがハッとして私を見上げた。
盗みみるように現れた自分を恥じると同時にこのタイミングで来てしまったことを悔やんだ。
カイさんがまるで別人のようで、怒りを露わにするとこを見たことがなかったからどうしていいのか分からなくて、ただジッとカイさんを見て固まる。
けど交わる視線は一瞬でスッと逸らされた。
「カイ、」
「悪い、…今あんたと正気で話せる気がしない」
「ッッ」