ブンベツ【完】


人と人の間からにょろっと縫って出てきたそれは私の手首を徐に掴むとグイッと引き寄せた。

あまりの力にバランスを崩し、この大衆の中すごい周りの人に迷惑であっただろうけどアスカさんの引っ張ってくれたおかげで人に呑まれずに済んだ。

溜息をつくと「バカ、逸れたらどうすんだぁ?」とすごく面倒くさそうな顔をされて返す言葉がない。

こんな大衆の中逸れたら引き合うことはまず無理だし、番号すら知らない時点で電話なんて皆無だ。


だからそのまま私の手首を引っ張るアスカさんの腕を振り払うことは出来ず、大人しく引っ張られることにした。

…カイさんと来てたら、こんな風に私を引っ張っててくれただろうか。
「ボケッとしすぎだ」とか憎まれ口を叩きながら、それでも腕を掴んでくれたんだろうか。

きっとそうだとしたらドキドキしちゃってお祭りどころじゃないんだろうけど、それでもカイさんと来てみたいと思う。


あぁ、もう頭から離れられない。
もしかしたら私は重度の病気なのかもしれない。

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