ブンベツ【完】
好きな人の前で可愛くありたいと思うのは女の子にとって当たり前のことで、言葉を一つ貰えるだけで嬉しいと思う。
たとえそれが本心からじゃなくてもいいの。
お世辞でもなんでもいいから、そう言ってくれるだけでいい。
そのたった一つの言葉だけで、私は満たされてしまうから。
それからして、カイさんに手を引かれてお店に戻った。
居間に上がるといつものように卓袱台には吸殻が溜まった灰皿とリモコンが一つ。
いつもここにいるのは暇の間だけだから、こうしてこんな時間にいるのが凄く違和感がある。
…カイさんと二人きりって意識すると緊張が走る。
カイさんが変な気を起こすはずないって分かってるけど、どこか期待してる自分がいる…。
あぁ…不埒だ。
私本気で、カイさんに何されてもいいって思ってる。
カイさんがそれを望むなら、って本気で思ってる。
「着替えねぇぞ」
「え?」
帰ってくるなり台所の換気扇の前で煙草を吹かし始めたカイさんが紫煙を吐き出しながら言った。
コンロに少し寄っかかって早速煙草を加えるなんてかなりのヘビースモーカーだ。
って、そうじゃなくて。