ピッキング・カルテット
 * * *

主人――東サダオとは、彼が劇団に所属していた時からの知り合いでした。

30年前、当時新人だった彼が私が勤務する弁当屋にお弁当を買いにきたことがきっかけで親しくなりました。

主人とつきあって結婚するのに、そんなに時間がかかりませんでした。

まだ売れない劇団員だった主人と安い小さなアパートで身を寄せあうようにしての結婚生活だったけど、そこにつらさや苦しさなんかありませんでした。

主人のそばにいて支えてあげることが、私の幸せでした。

そんな幸せは…主人が2時間ドラマで、主演俳優の友人役を演じたことがきっかけで崩れました。

その役がきっかけで彼の演技が高く評価され、さまざまなドラマや映画、舞台に出演するようになりました。

あまりの多忙さから、主人とのすれ違いが多くなって、主人は浮気をするようになりました。

酔っぱらって家に帰るのは毎日で、私が仕事から帰ると家に主人と他の女がいたこともありました。

私はそんな生活に耐えられなくなって、サインした離婚届を置いて、家を出ました。
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