私と彼と――恋愛小説。
駅までの僅かな距離。どうしても送ると言う佐久間の言葉に甘えた。


満員の地下鉄へ乗り込むと車内の様々な広告が目に入る。


『相当目立つぞ。今回は結構気合い入ってるからな』


営業の部長からTVCMや媒体への告知プランは聞いている。構内がnox一色になる駅もある。


嬉しさとのしかかる不安。創刊に関わるのが初めての私には不安の方が大きい。


来週には全てが世間に向けて動き出すのだ。少しずつ社内の空気もピリピリとし始めている。


創刊は〈カヲル〉にとっても大きな意味がある。中吊りにもCMにも連載は告知される。


携帯小説の世間一般での評価は高くない。それは誰でもが感じている事だ。


際立った設定で爆発的に売れた作品もある。けれども、世間の評価は低くその事が携帯小説全体の評価を下げてしまった。


佐久間の仕掛けはnoxだけではなく、そうした事にも影響を与えるのだ。


この件がなければ、私にも無縁の世界だったのかも知れない。携帯小説に思いをはせる事もなかっただろう。


けれども関わった以上、誰もが成功させたいと努力しているし願っているのだ。
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