年下くんの事情
「こっちよ・・」
飲みかけのコーヒーを残したまま、夕子は先導を切って社長室へ進む。
(こ・・これ置いといていいのか・・・な?)
そのまま放置されたコーヒーカップやゴミを尻目に、夕子の後に続く。
龍のオフィスは2階までエレベーターで下がった所にあった。
社長室とまではいかないが、木目のシックな小部屋で、トイレと洗面台まで付いていた。
その横は殺伐とした事務室が続いていた。
一番奥の1室は倉庫のようになっていて、手前には郵便を振り分けたりしている事務員やアルバイトが
働いているようだった。
「ここは・・・」
と、夕子が龍のオフィスの隣の部屋を指差して
「雑誌にうちの製品を売り込んだり、各家庭や会社に営業して年間購入を勧めたりする部署よ」
「ま、うちで言う平の仕事ね・・安心して、龍には関係ない人たちだから。」
見下したように手で髪を払うと、向きを変えてエレベーターの方へと歩き出す夕子。
龍は平と呼ばれた人たちに目が釘付けになっていた。

「やったぞ! ニチレイフーズのピラフにバナバエビを使ってもらえるよう許可を貰ったぁ!」
一人の社員が受話器を置くやいなや、天上にガッツポーズを作り、嬉々として叫ぶ
「おっやるじゃん餅田くん!俺も外回り行って来ます!」と、中年の社員。
「行ってらっしゃい! 今日こそはお得意さん出来るといいわねぇ」
黒縁のメガネをかけた団子頭の叔母さん社員が中年の社員に威勢良く声をかける。
皆なんて活き活きしているんだろう。仕事って面白いのかな?
龍は自然と笑顔になっていた。 夕子の先ほどの態度も気にならないようだ。
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