年下くんの事情
ピンポーン
エレベーターが2階に止まった。
「龍、 行くわよ」
夕子の声に龍の笑顔が消える。

「ここが情報テクノロジー支部よっ」
夕子は自慢げにガラスのドアに掘り込まれた文字を指差して言う。
一歩踏み出すとドアは両サイドに開いた。
部屋の中もさっきの事務室とは違って繊細だ。
テーブルが一人一人別々の向きに設置され、BOX式になっている。
各テーブルにパソコンと印刷機が置かれている。
夕子は一人一人に龍を紹介し、龍の電話番号とメールアドレスを記された名詞を差し出した。
最初は身構えていた龍だったが、 夕子が紹介した社員達は 皆一様に優しく、「これから宜しく頼むよ」
と龍の肩を叩いたり、「今晩一緒に飲みに行こう」と誘ったりと、びっくりするくらいの歓迎で、
龍も皆と次第に溶け込めるようになっていた。

「ちょっとちょっとぉー」さきほどの女性社員が数人引き連れて
麻理子のところへ押しかけてきた。
エリート社員達が数名、正門玄関の方へ歩いてくるという情報を麻理子に言いたかっただけなのか、
受付にいることで彼等の眼中に入れるかも?という淡い期待を持ってか、受付のカウンター内が
女性社員で一杯になった。

彼女たちが羨望の目で見ている方向から、数人のスーツを着込んだ男性が笑顔を振りまきながら
歩いてくる。寺山が肩を組んで、親しげに話しかけているのは龍だった。
麻理子が突然の再開に硬直していると、
寺山がカウンターの横で立ち止まった。
龍は寺山の腕が首に回って引き止められ、苦しそうにむせている。
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