年下くんの事情
麻理子は疲れきっていた。普段なかなか怒ることもない、
どんなにからかわれても、ヘラヘラと笑って場を和ませていたのに・・・。
何の権利があって一人の女性に頭を押さえつけられなくてはいけないんだろう。
安易にこの状況に適応するだけの柔軟性が、自分には無いことが不思議で仕方なかった。
(私・・素直な性格だってよく、言われてたんだけどなぁ・・)
人の作戦通りに自分が運ばれていくのが嫌なんだと、次第にわかってきたが、
寺山さんにしても、龍にしても、これから深く関係していく間柄ではないことが
自然と夕子の命令通りにするしかないことを、歩きながらぼんやりと納得していた。

裏口に差し掛かると小さな開けっぴろげになっている出口は暗く、いつもより
帰りが遅くなっている事に気付いた。
「うわっもう8時? もぅ・・・・今日は散々だな」
ボソボソと呟きながら出口にある、3段ほどの階段の前まで歩いてくると。
右手に黒い人影が壁に寄り添って立っているのが薄っすらと見えた。

麻理子は見ないフリをして階段を1段、又1段と降りていく。
「やっ、今日は遅かったんだね」
背後から足音が近づいてきたかと思うとそれは寺山哲司だった。
「あっ・・・えっ?」
ふと右手を見てみたが黒い陰は何処にも見当たらない。
「寺山さん・・皆さんと帰ったんじゃなかったんですか?」
最後の1段を降りてから振り向いた。
すると寺山も2段まで降りてきていて、以外に接近して話していることに気付くと、
麻理子はあわてて一歩下がった。
「あぁ、あれは安達くんとの親睦を兼ねてね、皆で喫茶店に言ってただけだよ」
「そうなんですか」
自然と微笑んだが、次の瞬間、夕子に言い放たれた一言を思い出した。
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