年下くんの事情
「すぐ近くです」
「あ・・・あの・・・・腕が・・腕が痛いっ」
そういうと、ハッとして寺山は立ち止まり、次は麻理子の肩へ手を伸ばそうとしてきた。
「あれ?寺山さんじゃないっすか?」
後ろから駆け寄ってきた龍がその手をつかんで言った。
「龍くん?!」
(うわっ・・・もーちょっとこれ・・・どうしたらいいのぉー)

龍は寺山の腕を掴んでいる、反対の手で握手をして麻理子と寺山を引き離すと
「麻理子ちゃんこんなとこにいたんだーもー探したんだよ」
と言って、今度は麻理子の腕をつかむ。

「じゃぁ、寺山さんまた明日職場で!」
寺山の腕を放した手を上にかかげでサヨナラのポーズをとった。
寺山はなにが起こったのかわからない様子で 怒ることもせず、ただ「あぁ・・・また」
とだけ、麻理子の方を向いて呟いた。

「ちょっ・・ちょっと龍くんっ離してっ」
龍は駅へと向きを変えて、麻理子の腕を掴んだまま歩いていた。
(龍くんの顔・・なんか怖いよぉ・・・)
「あ・・・あのさ、手を離してくれない? 歩きにくいんだけど・・・」
駅に近づいた所でやっと手を開放された。
なぜ龍があそこにいたのか、 なぜ自分をいきなり連れて帰ろうとするのかも
わからなくて、龍に聞いてみたいと思っていたけれど、
龍の雰囲気がそれを拒んでいるようで聞きだせなかった。
「えと・・・じゃぁまた明日ね」
一方的に別れを告げて、改札を通った、
ホームに立っていると、下りの電車が目の前を通り、やがて徐々にスピードを落として止まると
自分の横に龍が立っていることに気付いた。
「あれぇ? 」
龍の顔を見上げて言葉を出せずにいると

プシュー
電車のドアが開いた。
龍は黙って麻理子の背中を手で軽く押して電車の中へ押し込むと、
自分は入らず、ホームに立って、ただ麻理子の姿を見送っている。
「何がしたいの・・・」
電車のドアが閉まると、龍はただ無言で麻理子を見つめながら手を振っていた。
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