ASIN(微BL)
「確かに俺は神宮の女形としてはまだまだ半人前です。覚えなきゃいけない事もいっぱいあるし、身に付けなきゃいけない事もまだまだたくさんある。でもこのままじゃ人とダメになりそうな気がして……」
あれやこれやと欲張っちゃダメだってわかってる。でもこのまま流される様に生きるのも何か違う気がするし……。
「お願いします、咲湖お母さん、実お父さん。どうか一度だけ俺のわがままを許してください!」
言い切ってバッと頭を下げる俺の姿にお父さんとお母さんが小さく呆れを含んだ溜息をついたのが聞こえた。
やっぱり、無理だろうか。
そんな言葉が脳裏を掠める。
こくり、と小さく喉をならして二人の返答を待っていると実お父さんが「あ〜」と声をもらしたあとパンっと膝を叩いた。
「よっしゃ、どうにか掛け合ったろ」
その言葉に落としていた上体を起こして「本当ですか!?」と声をあげた。咲湖お母さんは少し困った様に眉根をよせて「実さん?」と咎める様にお父さんを見やる。
「確かにいろんな経験するんは必要やしな。わしかて芸人始めた頃は自分の無知加減にそらァもう苦労したもんやで」
うんうんと深く頷く実お父さんに「そうなんですか?」と返す。
「まずは日本語喋れへんかったやろー。あとブラックジョークとお笑いの違いもわからんかったからお客さん弄りすぎてもて怒らしてまうし。まぁようは勉強不足やったっちゅー事やな」
「はあ……」
なんか違う気がしない事もないけど、そう……なのか、な?
「確かにお前は神宮の家に入ってからはずっと稽古稽古で好きな事出来へんかったやろしな。少しくらい好きな事したかて罰は当たらんやろ。な、咲湖さん?」
ニッと人当たりの良さ気な笑みで同意を求めてくる実お父さんを咲湖お母さんも呆れた顔で見やりながら「そうね」と頷いてくれる。
「でも一応お父様にお伺いを立ててからにしましょうね」
そう言って柔らかく頭を撫でてくる咲湖お母さんに、俺は大きく頷いた━━。