くれなゐの宮
その後、食事は何事もなく済み、宮女たちは片づけをすべく神の間から退出し、部屋にはおれと彼女だけが残された。
イロヒメは先程の事もあってか黙り込んだまま簾越しに窓を覗き…眼下を見つめている。
余程祭に行きたかったのだろうか。
そんな事を考えている内に、イロヒメが口を開いた。
「ここに来てからもう十数年になるが、一度も外へは出たことがないんだ。」
「…え、」
「民と話したこともない。…顔を隠し、面前に出ることはあるが。」
さみしいな、と小さく呟くと、今度はおれの方を向き直る。
「なぁ、良かったらお前の話をしてくれないか。何でもいい。好きなことや、特技や…故郷の事でも。
お前の事が、もっと知りたいんだ。」
彼女は笑った。