くれなゐの宮
「私の大好きな風景なんだ。そして、私の一番好きな花。…年中咲いていて、いつも私を笑顔にしてくれる。」
渡り廊下に腰を下ろし彼女は花を一つ摘むと、おれの手に乗せた。
「この花の名はイハル。」
「…イハル?」
それから誰にも聞こえないような、とてもとても小さな声で、一言付け足した。
「イハルは…私の真名だ。」
「!?」
思わず花を落としそうになる。
「そんな大切なこと…どうしておれに…」
「生贄には隠し事をしない様にしているんだ。…あとひと月の命、せめてもの…償いに、と。」
花を見つめたまま、彼女は言う。
「あと…私という存在を、忘れたくない。この名前だけが私の思い出だから。」
消えてしまいそうなくらい、儚い声だった。