くれなゐの宮
存在
「私は、この国の者ではない。」
翌朝、イハルはまっすぐにおれを見つめたまま言った。
「生まれはイゼリオ公国。名はイハル・カガセ。それ以上でもそれ以下でもない。私は…ただの人間だ。」
イハルは自嘲を含んだ笑みを浮かべ、視線を背ける。
「私の民族は特殊で、それぞれがまるで虹の様に多くの色の髪と瞳を持つ。それを珍しがってか、他国の者はこぞって私たちを欲しがった。愛妾、奴隷、見世物として…多くの仲間たちが心無い者に狩られていった。」
「私も被害者の一人にすぎない。たまたま私が紅色の髪と瞳を持ち、たまたま連れてこられたのが、変な言い伝えを守り続けるおかしな国だったと言うだけで…。」