くれなゐの宮
「でも…今は、死にたいとは思わない。」
まるでおれを庇うように告げるイハル。
「私は生贄となった者たちの分も生きなければいけない。そして彼らが果たせなかった願いを叶えるために、いつか必ず故郷に帰る。」
彼女は太陽の様に笑う。
その笑顔はあまりにも無垢で、この国には似つかわしくない。
「チサト、お前が初めてだよ。私を知りたいと言ってくれたのは。」
ありがとうと、声に出さず彼女が言った時、出払っていた宮女たちが戻ってきた。
おれは静かに一礼をすると、紅ノ間を後にし…自室に戻る。
部屋の襖を閉めたとき、思わずその場に膝から崩れ落ちた。
そして何度も何度も昨日彼女にしようとしたことを詫びた。