くれなゐの宮


夕食後。

庭へ出かけないか?
と、イハルに誘われ部屋を出た。
勿論数人の宮女たちを連れて。

祭が近いせいか、宮の者はあちこちで楽や舞の稽古をしていて、宮はやたらと活気に溢れている。
もう夜も深いと言うのにご苦労な事だ。

響く笛の音を聞きながら、赤提燈をいくつか通り過ぎる。
暫くすると通路は行き止まりになり、イハルが振り返り口を開いた。


「着いたぞ。」


目の前に広がる、とてつもなく広い庭。
点在する灯篭には火が灯され、手入れされた緑が良く映える。

あちこちに流れる小川には鯉が泳ぎ…その光景は少し故郷と似ていた。

イハルは宮女から靴を受け取ると庭に下り、小川の側に腰を下ろし鯉と戯れる。


「随分と大きくなったな。少し育ちすぎたか…。」


近くに生えていた笹で鯉を優しくつつけばその度に鯉は惑い、クスリと笑うイハル。

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