くれなゐの宮
「お気をつけなされませ、ヒメ様…」
彼女を気遣う宮女たちがしきりに声をかけるが、無用だと言わんばかりにイハルは「よいよい、」と言っては楽しそうに笑う。
そんな、無垢な彼女の笑顔を見ると、妙に心がざわついた。
何故だろうか。
まるでもう少し彼女の笑顔を見ていたいと願う自分がいるよう…。
ほんの軽い気持ちのつもりで、おれは彼女の手から笹の葉を取り上げると二つに折り曲げた。
「何をするんだ、」
慌てふためくイハルだったが…おれの手の中で徐々に出来上がるそれを見て、小さく声を上げる。
—笹舟。
小さく、些細なものではあったが…彼女はとても喜んでくれた。
「チサトは器用だな。見事だ。」
彼女の手に支えられ、小川に下ろされる舟は…やがて優しい水流をゆっくりと流れていく。