くれなゐの宮

話を聞いた所、どうやら遠征に出かけていた王がここへやってくるらしい。

王が住む王宮は別にあり、ここに訪れるのはそうそうない事のようだが、


「王が、今のシキガミさまをすこぶる好いておられるようでな…。」


「時間を見つけては突然会いに来られる。」


「いつも急だから準備をするにも…。こっちの身にもなってほしいものだよ。」


と他の宮人が教えてくれた。

するとその中の一人が何本もの酒の瓶を抱えたまま、おれに問いかける。


「そう言えばお前、なんていう名前だっけ?」


「あ、申し遅れました…。チサトと申します。」


慌てて答えると彼は、「ああ、今月の生贄の。」と、ニヤリと笑った。

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