くれなゐの宮
思わず、誰?と言いそうになる口を閉じ、暫く男を見つめる。
男もまた、おれをまじまじと見つめると、開いた窓や望遠鏡に視線を移したのち「成る程。」と呟いた。
「…お前はこの月の贄か。」
彼は長い黒髪を翻し窓の外を見る。
「人を贄にするとはいささか残酷だ…。お前もそう思わぬか。」
切れ長の…恐ろしい程に煌めく瞳を彼はおれに向けた。
とんでもない威圧感の中、おれは口を開く事も出来ず首を動かす事も出来ない。
「ならば神さえいなくなればいい。と私は思うわけだ。
神がいなくなればお前のような贄は必要なくなるだろう?」
男は口元を緩め、言う。
「…つまり神を我が妻とすれば良い。」
その言葉を聞いた途端、悟った。
この男は、
———王だ。