くれなゐの宮
諸刃
宵闇が迫り、赤提灯が灯る頃。
宮の者たちは狐を模した面で顔を隠し、広間へと列を為した。
彼らが足を進める度に装飾の鈴が、シャン、シャン、と厳かに響く。
同時に神秘さも増した。
—―まるで故郷で言う狐の嫁入りだ、とチサトが言っていた。
だがそれが一体何なのか、私にはよく分からない。
けれど、嫁入りという言葉が心に引っかかった。
恐らく、王との面会が何事も無く終わる日々は長くは続かないだろう。
彼が私に向ける執着は愛とは違う。
いずれは妻にと、神を娶ろうと、その背に回した手の平で何人の駒が踊っているのか。
狂気が滲む、あの、笑み。
ぞくりと背筋に悪寒が走り、思わず付き添うチサトの手を強く握ってしまった。
彼が振り返るが…小さく首をふる。
なんでもない。
でもそんなのは、綺麗事。
チサトに王とはもう会いたくないのだ、と打ち明けてしまえば少しは楽になれたのだろうか。
しかし無情にも鈴の音が鳴る度に、確実に広間は近づき、見覚えのある一行がこちらを見る。
広間の中央奥、片側の台座に座る人物。
彼が、王。
私はチサトに手を引かれるまま、王の隣へと腰を下ろした。
そして、チサトの優しい指が離れる。
足音と鈴の音が名残惜しげに遠のく。
ああ、また。
また、長い夜が始まるのか。