くれなゐの宮

静まり返る広間。

全ての者が最悪の事態を想定した。

思わず、私の喉から悲鳴にも似た叫びが上がる。


「お願いだ…、私はまだお前と…!」


しかし、チサトは一度だけ振り返るとこう言った。


「おれは所詮生贄です。貴女の為に死ぬ駒です。…貴女の為に死ぬのなら、それがいつどこであろうと、同じことだ。」


「違う、そんなつもりは…」


「大丈夫。おれはまだ…貴女をひとりにはしない。」



「チサト…。」



そして彼は歩いて行った。


王が用意した最悪の舞台に、たった一つの剣を携えたまま…




王の目前に、対峙した。

< 54 / 119 >

この作品をシェア

pagetop