くれなゐの宮

王の剣とチサトの剣が交わった時、

全ての者が、息を飲んだ。


まるで剣舞を見ているようだった。

王の斬撃をかわし、飛びまわる蝶の様にチサトは剣を薙いだ。

挑発に乗る事無く冷静さを保ったまま、彼は剣を己の一部と為し舞う。


ふと出会った直後に聞いた話を思い出した。

そうだ、確か…チサトは故郷で剣術の師範をしていたと…。


だからか。

だから、あれだけの余裕があった。

きっとその余裕は、王をはるかに上回るものだったに違いない。


だが、王も伊達に場数を踏んでいない。

何度も放った斬撃の一つがチサトの面に当たった。


ぐらりとよろけるチサトの体、割れる面。

彼の顔が露わになり、額からは鮮血が零れた。




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