くれなゐの宮

「……ああっ、」


思わず悲鳴が漏れる。



しかしチサトは笑った。

まるで本番はこれからだと言わんばかりに、突然恐ろしい速さで剣を薙ぐ。


今までとは圧倒的に異なる動き。

反撃する間を少しも与えず、王の領域を凌駕していく。

鳴り響く金属音が全ての者の鼓膜を震わせ…畏怖させた。


それからはもう、あっと言う間だった。

王の服を裂き、髪を断ち、チサトの一部と化した剣は指より巧みに彼を引き裂いて。

終に。





鈍い音と共に、王の手から弾かれた剣が…広間の中心に突き刺さった。



王の首筋に刃を当てたまま…チサトは静かに呟く。




「国の王が、この程度か。」


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