くれなゐの宮

きっと驚いているのだろう。

チサトの心臓の音が早く聞こえる。


「イハル様、」


「…いい、話すな。」


すぐに涙が溢れて止まらなくなった。

ここに彼がいる事が嬉しくて、嬉しくて。

もしあの時チサトがいてくれなかったらと思うと、胸が張り裂けそうだった。


だが同時に申し訳なさで胸が張り裂けそうにもなった。

ただでさえ重責を課しているのに、こんな怪我までさせてしまったのだ。


私を守る義理なんてないのに、私の為に死ぬ義理なんてないのに。

もう彼を生贄だなんて思いたくない。


願わくばずっと、このままずっと——…。

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