くれなゐの宮

だが動揺も束の間、彼は囁くように言った。


「もし、突然神が消えたらこの国はどうなるのでしょうか。」


「分からない。けれど…いずれ間違っていると、気づかねばならない日が訪れる。そう、信じている。」


何を感じたのだろう。

私を抱き締めるチサトの腕に力が籠る。

その両腕は小刻み震え、首筋に触れる吐息は、消えそうなほどに儚い。


まるで諸刃の剣のようだ。


私は急に怖くなって、地に着いたままの両手を持ち上げた。

そして、彼の存在が消えてしまわないように、強く抱きしめ返した。

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