くれなゐの宮
その後、脱衣所でナズと別れ渡り廊下に出れば…もうすっかり月は登り、周りの草木からは虫の音が彼方此方で聞こえる。
風が時折冷たく吹いて、思わず服の上から腕をさする。
2週目にしてようやく慣れてきた宮の生活も、すぐに終わってしまうのか。
キリ、と痛む心。
無情にも流れていく時に虚しさを感じながらも、おれは静かに足を進めた。
すぐに部屋には戻らない。
赤提灯が光る通路を幾度も曲がり、階段を数段上がる。
そしてすぐ視線を左に向ければ、誰も使っていないであろう半屋内の部屋がおれを迎えてくれる。
変わらないため息を小さく息を吐くと、手すりにもたれかかるようにして座り込み…頭上高く上る月を見上げた。
最近見つけた場所だが、何度か来るうちに居心地がよくなってしまい、それからと言うもの時間を見つけてはひとりでここに来ている。
ここは唯一誰にも干渉されないとっておきの場所だ。
景色も良く、ひと時ではあるが…自分がどうしてこんな所にいるのかを、忘れさせてくれる。
視線を戻せば、ずっと向こうまで続く赤提燈。
暖かい、家族団欒の灯りが灯る家。
憎くも鮮やかな…宵の町。