くれなゐの宮
あと何回この景色が見れるのだろうと思いを馳せる。
だが、あっと言う間に気分が滅入り…おれは瞳を閉じた。
景色を見ることも、イハルと会うことも、
この命が尽きるのも…もう時間の問題だ。
薄らと目を開け空を見上げれば、ぼやりと月が揺れる。
おれが見ているこの月を、…故郷の家族たちも見ているのだろうか。
同じ世にいるのに二度と会えないなんて。
家族の顔を思い浮かべるほど月は陰り、景色は歪む。
零れないように腕で涙をぬぐえば、傷口がじくりと痛み…俯いたまま唸り声を上げた。
早く包帯を巻かなければ。
だが、手を伸ばした先にあったはずの包帯が見つからず、服の上から体を触る。
——無い。
浴場の脱衣所に置いてきてしまったのだろうか。
ああ、と手を額に当て、重い腰を上げる。
仕方なく、おれは来た道を戻る事にした。