くれなゐの宮
失くしたのは浴場で間違いないはずだ。
籠の中に入れた覚えがしっかりとある。
なら…もしやナズが間違えて持って行った?
ああ、もう。
結局その考えに至ったおれは番台に礼を告げると、今度は宮人が暮らす離れに赴いた。
出来れば来たくはなかったが…やむを得ない。
当然、先の一件のせいでおれの顔と格好はもう広く知れ渡っている。
その為、例え同姓と言えどもおれの訪問に宮人達は驚き、どよめきざわつき、あれよあれよと入り口は人で埋め尽くされる。
すると突然ナズが現れ、言葉を発するが否や力強く襟を引くとおれを奥の部屋へと引っ張った。
「ち、ちょ…!」
「いいから黙ってついて来い」
言われるがまま半ば廊下を引きずられ…放り込まれたのは楽の稽古をする者が数名集まる半屋内の広間。
中には数人の宮女の姿も見え、彼らはおれに気づいた途端甲高い声を上げた。
「……え?」
戸惑うしかないおれをよそに、ナズは得意げに彼らに言う。