くれなゐの宮
それ以上彼女は何も言わなかった。
否、きっと敢えて言わなかった、のだろう。
おれは静かに手を重ね返し、握りしめる。
小さな手から伝わる、とても大きな温もりを逃がさぬように。
月が陰り、赤提灯が揺れ。
増々深くなる宵に消えしまいそうな声でイハルは告げた。
「…明日はもっと早く、帰ってきてくれないか。」
微笑み、おれはゆっくりと頷く。
「……はい。」
そして一層強く、彼女の手を握りしめた。