くれなゐの宮

――彼女の名はコウ。イハルの世話係の一人だ。

先程彼女を見た時に、道理で見たことがあると感じたわけだ。

しかし顔を合わせたことはあっても直接話したのはこれが初めてで。

話を聞いたところ、彼女は宮人長の部屋に向かうおれをずっと付けていたらしい。


そして…おれが宮人長と何を話していたのかも全部、聞いていた、と。


「すみません…悪気はないんです…。でもどうしても貴方に伝えたいことがあって、貴方が宮人長と話している内容を聞き、決意致しました。」


コウは空き部屋の隅におれと向かい合うように座り、目を伏せる。


「…ヒメ様をどうか、祭に連れて行って差し上げて下さいまし。」


思いがけない言葉におれは目を見開いた。

まさか神を擁護する立場である彼女らが、そんなことを口にするとは想像してもいなかった。

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