くれなゐの宮
宵祭
赤提燈に灯りが燈る頃、いよいよ大通りは賑やかさを増してきた。
響く祭囃子に人々の声。
今日は特別に宮の一部を開放し、一般の民が宮の者の舞楽を見に来たりもするそうだ。
きっとこのどこかでナズが屋台を出し、トウカが笛を奏でているのだろうと思いを馳せながら、静かに自室を後にした。
「チサトさん、」
紅ノ間に行くなり、コウが俺を呼ぶ。
そして部屋の奥に視線を移せば、素朴な着物を纏い…真麻の布で髪と顔をすっぽり隠したイハルが、おずおずと立っていて。
彼女の長い髪は上手いこと短く結いあげられ、一瞬見た程度では町娘の格好とさして変わらないように見える。
「あまり光の近くにはお近づきになさられぬよう…。外が暗く、いくら髪と顔を隠しているとはいえ…見つかれば……。」
コウはそこで口をつぐみ、おれを見た。
まるで何度も念を押すように。
「……イロヒメ様はおれが、必ず。」
それから裏口の鍵と程々の銭を俺に渡し、コウは静かに礼をした。
他の宮女もコウに倣い、おれはイハルの手を取る。