くれなゐの宮
「…どうか、」
「無事で。」
紅ノ間を振り返ることなく、急ぎ足でコウに教えて貰った裏道を通り抜けた。
出来るだけ人目につかぬよう、決して、宮人長と出会わぬように。
その道中はお互い一言も話すことなく、ただ必死に手を握り足を動かした。
凄まじい緊張感だった。
しかし、心の中は澄み渡り、果てしない喜びと困惑の狭間にあるような感情が、沸々と湧いてくる。
いくつもの赤提燈を追い越し、階段を下りるにつれ人の声が多くなった。
一段と息をひそめ、足音を消し、慎重に裏口へと続く廊下を曲がる。
逸る気持ちに歯止めをかけながらも角を過ぎれば…、突き当りに佇むのは古びた扉。
――あれだ。
コウから預かった鍵を用意し、阿波錠の鍵穴に差し込む。
すると錠は簡単に外れ…扉は外側へと開いた。