くれなゐの宮
外の空気が顔にあたるのと同じくして、体中に太鼓の音と心地よい笛の音が響く。
だが、祭囃子の余韻に浸る間もなくおれ達は急いで下駄を履き、大きな石で扉が開かないように固定する。
…どうやらここは宮の裏庭らしい。
見上げれば、いつも外を眺めている庭が少しだけ見えている。
表に回るには宮を大きく半周する必要がありそうだ。
位置を確認し、おぼつかない足取りのイハルの手を取りながら、裏庭の一角にあった扉から外に出た。
左右の外壁沿いには無数の赤提燈が下げられているが、人ひとり歩いていない。
「暑いな…。」
じとりと湿った季節特有の空気が汗を誘うが、そのお陰で時たま吹く涼しい風が、より心地よくも感じる。
「そうですね…。」
道中、何度か同じ会話を交わしながら角を回れば、空は夕焼けのようにぼんやりと赤く染まり、祭囃子や人々の声は大きくなる。
きっと次の角を曲がれば大通りに辿り着くだろう。
逸る気持ちと、今の胸の高鳴りを暫く楽しんでいたい気持ちを胸に秘めたまま、その後はお互い言葉を交わすことなく、ゆっくりと歩みを進めた。