誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・」


 車の中に戻ろうとしたのだけど、ドアの取っ手に触れた瞬間、私は力なく地べたに座り込んだ。


 アスファルトの上は、かなり砂に侵食されている。


 月明かりもあるけれど、目がだいぶ夜の闇に慣れてきた。


 どんなに目を凝らしても、辺りに和仁さんの姿が見えない。


 本当に消えてしまったかのように思えた。


 さっきまであんなに、近づくことすら警戒していたはずなのに。


 いざこうして一人取り残されてみると、寂しくてたまらない。


 「もういや・・・」


 再び瞼が涙で覆われた。


 せっかく乾いたと思ったら、また涙で濡れてしまう・・・。


 「理恵・・・! どうしたの?」


 その時急に、背後から肩を掴まれた。


 私は顔を上げた。


 和仁さんが戻ってきた。


 「どうしたのこんな所に座り込んで。・・・泣いてるの?」


 私は何も答えられなかった。


 「ごめん、また悪い癖で。つい写真に夢中で」


 言葉など何も要らなかった。


 ただ、そばにいてさえくれれば。


 「・・・理恵?」


 私は向きを変え、和仁さんにそっと抱きついた。
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