誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・。


 「企んだんですね」


 「まさか。だとしたら僕って、かなりの策士じゃないかな」


 波音だけが鳴り響く夜の淡い闇の中、私は久しぶりに口を開いた。


 ・・・もしかして、ここに至るまでの全てが、罠だったんじゃないかなと考えていた。


 偶然を装って、私をここまで連れ出して。


 気味の悪い話を繰り返し、一人置き去りにし、不安を煽った挙句・・・。


 「嘘つき」


 「僕が? なぜ?」


 「絶対に何もしないって約束したくせに」


 「・・・約束は守ったつもりだけど」


 「だって、現にこんな」


 「誘ってきたのは君のほうだ」


 そうだ、これも罠。


 私を精神的に追い詰めて、ついには私のほうからすがりつかざるを得ないような展開に持ち込んだのだ。


 今になって、「僕からは何もしない」と約束を繰り返した訳が理解できた。


 自分からは手を下さずとも・・・私のほうからすがりつくことになるであろうという、万全の自信があったに違いない。
< 102 / 433 >

この作品をシェア

pagetop