誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ま、あいつはお人よしだから、きっと君は忙しいんだろうっていいほうに解釈して、また明日にするんだろうけど」


 「・・・」


 その通りであると予想される。


 「あいつは親の教育がよかったのか、他人を悪く言わない優しい子なんだよね」


 自分のことを棚に上げるというか賞賛しながら、衣服の中に滑り込んできた手が私の、抵抗しようという意志を奪う。


 「親の教育がよすぎたのも、かえって心配の種なんだよね。あんなに人がいいと、いつか悪い女に騙されるんじゃないかと心配で」


 「悪い女・・・?」


 「そう。金目当てで佑典に近づいてくる、悪い女が現れないとも限らない」


 それって私のこと?


 「ば、ばかにしないでください。お金目当てだなんてひどすぎです。私は佑典くんの家のことなんて、何も知らないで付き合い始めたんですから・・・」


 「それとは別に・・・。佑典からは得られない刺激を、別の男に求めようとする、悪い女」


 これが私のこと?


 「私・・・そんなつもりでは」


 腕を伸ばし、佑典からの電話に出るべきかどうか迷った。


 迷った挙句、私は最後の選択肢を放棄してしまった。
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