誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 開け放たれた窓からは、依然として波音が響いてきた。


 窓は西側に向けられていて、明るくなり始めた空には、沈む直前の上弦の月がかろうじて見えていた。


 「・・・あの頃と何も変わらないね」


 水平線に迫る月をぼんやりと眺めていた私を、和仁さんはそっと抱きしめ、引き寄せた。


 「もう理恵なしじゃ生きられないかも」


 私の髪に指を絡める。


 「理恵は可愛いから、きっとあれから何人もの男たちと関係を持っていると思っていたよ」


 「・・・」


 高校時代のあやまちの後は、誰ともこんなことしていない。


 次は結婚する相手と・・・とまでは言わなくても、本当に好きな相手とにしようと心に決めていたのに。


 こんなにも脆く決意が打ち砕かれるとは、夢にも思っていなかった。


 誘ったのは私のほう?


 いずれにしても、結末はこの通り。


 海辺のホテルのベッド、私はさっきまで・・・。


 抱き合い求め合い、一つになることがこんなに楽しいことだったなんて、いつしか忘れかけていた。
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