誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「経験豊富なんですね」


 特に理由もなく、私の口から漏れた言葉。


 女の扱いに馴れた(と推測される)指から逃れるための、ささやかな抵抗。


 「何の根拠があって、そんな言いがかりを」


 余裕の態度で、一笑に付された。


 「だって、こんな・・・」


 「こんな、何?」


 「私を、こうも簡単に」


 三年前に和仁さんとお別れして以降は、もう決してたやすく男の人に身を任せたりしないって胸に誓っていた。


 大学生になって佑典と付き合い出してからは、佑典以外の人とこんなことするなんて、考えたこともなかった。


 いくら和仁さんとは嫌いになって別れたわけではないとはいえ、簡単にこんなことに・・・。


 「こうやって感じ合えるのは、僕が経験豊富だからってわけじゃないよ。三年前から理恵の身体は知り尽くしているから」


 キスで間を置いた後、和仁さんはこう結論付けた。


 「理恵が・・・素敵だから」
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