誘惑~初めての男は彼氏の父~
 一通りの自己紹介を終えた後でオーダーを済ませ、それから改めて身の上話などを始めた。


 「・・・水無月さんは最近、こちらに引っ越していらしたんですか?」


 「いや。一種の長期出張みたいなものかな。仕事の関係で一ヶ月間こっちに滞在してるんだ」


 「一ヶ月・・・。お住まいはどちらなんですか」


 「札幌のほうかな」


 「札幌。いいですねー。私はなかなか行く機会がなくて」


 この街は札幌から特急で数時間の地方都市。


 当時の私にとっての札幌は、数百キロの距離以上に果てしなく感じる大都会だった。


 「水無月さんはどのような写真を撮影されているのですか?」


 何となく写真家・水無月和仁の名前は耳にしたことがある。


 でもそんなに写真に関して詳しいわけではないので、どんな作品を残しているのかまでは分からなかった。


 「そうだ。ちょうどこんなの持っているから、記念にあげるよ」


 水無月さんはカバンの中から、ハガキサイズの袋を取り出した。


 「僕の作品が、ポストカードタイプになってる」
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