誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 「地下鉄の駅から、歩いたら結構かかるね。・・・この前遠慮しなくてもよかったのに」


 前回は佑典も一緒だったこともあり、住んでいる場所を知られたくないという思いもあったため、最寄の地下鉄駅脇の駐輪場で車を降りて歩いた。


 でも今回は、きちんと寮の前まで送ってもらった。


 もう隠しても意味がない関係になってしまったからである。


 「長い時間、ありがとうございました」


 結局昨日の夕方五時に待ち合わせをしてから、まる一日中・・・ずっと一緒にいたことになる。


 「お礼をするのは、こっちのほうだよ。また理恵とあの頃のように過ごせるようになるなんて、夢にも思っていなかった」


 運転席の和仁さんは、穏やかなまなざしで私を見つめる。


 「また会おうね」


 約束は返せなかった。


 こんなこと続けていたら・・・いずれ佑典にバレる可能性が高い。


 それ以前にこれは、許されないことだ。


 彼氏に対する、この上ない裏切り。
< 110 / 433 >

この作品をシェア

pagetop