誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ごめん・・・。困らせるようなこと言って」


 佑典は私を一瞬離し、じっと目を見つめながら告げた。


 「理恵は家族思いだよね。俺はいつも父親をないがしろにしているから、自分の親不孝ぶりが恥ずかしくなるよ」


 「・・・」


 「でも一つだけ、わがまま言っていい?」


 「何?」


 「・・・帰省の前に、二人きりでどこかへ行こう」


 「前から言ってた、旅行の話?」


 「うん。泊りがけでどこかへ」


 ・・・数日前、佑典の留守中に和仁さんとあやまちを重ねた私は。


 もう佑典のそばにいることは相応しくないと、別れるべきなんじゃないかと思いつめていた。


 でもこうしてまっすぐに見つめられてしまうと、たやすく決意は揺らいでいく。


 「いいよね・・・?」


 再びそっと抱き寄せられ、今度は唇を重ねた。


 人通りの途絶えた公園の脇に停められた車の中で、キスを繰り返した。


 曇っていて月の見えない夜、おぼろげな街灯にほのかに照らされながら。


 「考えておく・・・」


 キスの合間に口にしたのは、またしても曖昧な返事。
< 117 / 433 >

この作品をシェア

pagetop